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チョン・ユギョン 꽝! KKWANG!

2025.1.31

チョン・ユギョン 꽝! KKWANG!

チョン・ユギョン 꽝!  KKWANG!

会期:2025年2月22日(土)-3月8日(土) 

時間:12:00-19:00

休廊日:2月25日(火)、26日(水)  、3月3日(月)   、4日(火)   

 

このたびEUREKAでは、2025年2月22日(土)より、チョン・ユギョンさんの個展「꽝! KKWANG! 」を開催します。

チョン・ユギョンはこれまで自身が置かれた政治的に複雑な状況に焦点をあて、その疎外感や「場違い」といった立場を出発点に作品制作を行ってきました。本展では、チョンの作品において重要な「境界線」という抽象的なものを、ビジュアルにできるか試してみた絵画作品を中心に発表します。

本展のタイトル《꽝(クァン)》は、韓国語の擬音語・擬態語です。主に物が強くぶつかったり、爆発したりする大きな音を表します。このタイトルは、チョンが自身の立つ「境界線」を、二つ以上のものが衝突する狭間と捉え、そこにはまさに「クァン」という音が響いているのではないかと考えたことから選ばれました。

また、「꽝」には「ハズレ」を意味する使い方もあります。チョンは、自身のアイデンティティや複雑な状況と向き合うことを、まるでハズレくじを引いたようなものだと感じています。それは一見ネガティブに思えるかもしれませんが、場違いであることやハズレを引くこと自体が、思考を続け、技術を学び、どのようにアプローチするかを模索するきっかけになると考えています。

会期中に、トークイベントを開催します。お相手に山口祐香さん(研究者)をお招きし、作品の背景にある社会のことや歴史のことを中心にお話しいただきます。

 

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昨年、佐賀県有田町で開催した個展「大村焼」以降、私は自分が置かれた「境界線」や「複雑な状況」をどのように描き、表現できるのかを考えてきました。

私が言う「大村」は、単なる地理的な場所ではなく、概念的な場でもあります。

1950年12月、「不法入国者」とされた韓国・朝鮮人を本国へ強制送還するための大村入国者収容所(現・大村入国管理センター)が長崎県大村市に設置されました。そこに収容されたのは、日本の植民地支配の余波を受けた「朝鮮人不法入国者」や刑余者でした。植民地期に「日本国民」だった旧植民地出身者は、サンフランシスコ講和条約発効まで「日本国籍」を有する内なる外部として、複雑で不安定な法的地位に置かれました。朝鮮半島南北分裂後、「密航者」の管理は共産主義への脅威としてより強化され、収容所内でも北を支持するか、南を支持するかで分断していたと言われています。

この大村周辺一帯は古くから「放虎原(ほうこばる)」とも呼ばれました。文禄・慶長の役の際、朝鮮半島から持ち帰った虎を放ったことからこの名がついたと伝えられています。もちろん、実際に虎が放たれたという記録はなく、伝説の域を出ません。しかし、朝鮮から連れてこられた虎を放った場所に、後に朝鮮人収容所が作られたという事実には、想像力をかき立てられます。

また、大村だけでなく、朝鮮半島からの人の移動は他の地域にも影響を与えました。その一例が、大村に近い佐賀県有田町です。有田町は、日本を代表する窯業地のひとつであり、文禄・慶長の役で朝鮮半島から連れてこられた陶工たちによって、陶磁器産業が発展しました。有田焼の始まりは、朝鮮人陶工・李参平によるもので、現在、彼は有田にある陶山神社に祀られています。こうした歴史を通じて、大村と有田はどちらも民族や地域を越えた移動と文化の交差点となってきたのです。

私は、大村を民族や地域を越境する多様な人々が混在した具体的な場所であると同時に、現在に至るまで作用する「境界線」を探る概念的な場所であると考えています。その観点から、日本生まれの私が韓国軍の徴兵対象となる問題と接続し、大村と向き合っています。前回の個展は、「朝鮮と日本」という大きな歴史と、自分という小さな歴史を行き来しながら、その関係を広く捉えようとした展示でした。本展では、さらに「境界線」に焦点を当て、その曖昧さや衝突をどのように表現できるかを探ります。

本展のタイトル《(クァン)》は、韓国語の擬音語・擬態語です。主に物が強くぶつかったり、爆発したりする大きな音を表します。私が位置する「境界線」は、二つ以上のものが衝突する狭間であり、そこにはまさに「クァン」という音が響いているのではないかと思い、この言葉を選びました。また、「」には「ハズレ」を意味する使い方もあります。自身のアイデンティティや複雑な状況と向き合うことは、まるでハズレくじを引いたようなものだと感じることがあります。それはネガティブにも聞こえますが、場違いであること、ハズレを引いたこと自体が、考え続け、技術を学び、どのようにアプローチするかを模索するきっかけになるのではないでしょうか。

境界線は、はっきりとしたもののようでいて、実際には曖昧で揺れ動くものです。内と外の区別は時に恣意的であり、立場によっても変わります。私は、そんな曖昧な境界の中に身を置いていると感じることがあります。

境界に向き合うことは、明確な答えがあるわけではなく、常に「まどろっこしさ」を伴います。しかし、その中でこそ、新たな視点を探し、問いを立てることができるのではないかと思います。

美術もまた、明快な答えを示すのではなく、曖昧さや余白を内包するものです。だからこそ、私はこの手段を選びました。

鑑賞者は、私の視点や思考が作り出した空間に身を置くことで、新たな感覚や思考と出会うことができるかもしれません。

明確な結論を求めるのではなく、曖昧さとともに考え続けること。

その「まどろっこしさ」の中にこそ、私は希望を感じています。

今回の展示が、みなさんにとって日常や既知のものを異なる視点で認識するきっかけになれば幸いです。

                                                                                                                                       チョン・ユギョン

 

現在、福岡市美術館 コレクション展 近現代美術「コレクションハイライト」で、チョン・ユギョンの作品が展示されています(〜4/3迄)。あわせてご覧いただけると幸いです。
https://www.fukuoka-art-museum.jp/collection/?q=modern&type=now#a124310

 

 

【関連イベント】

アーティストトーク 3月1日(土) 13:30-15:00 

ゲスト 山口祐香

参加人数の把握のためにご予約をお願いいたします。

メール、電話、ギャラリーにてお申込み、または、作家に直接ご連絡ください。

Mail eureka@cap.ocn.ne.jp

電話 092-406-4555

 

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チョン・ユギョン / Jong YuGyong

1991年兵庫県生まれ、福岡県在住。

2014年朝鮮大学校美術科卒業。

2017年からソウルを拠点に作家活動をしていたが、韓国の兵役法が「改正」され徴兵対象となったため、2020年末に日本に帰国。作品では朝鮮人の「移動」の歴史を検証し、恣意的に引かれる「境界線」や戦争と文化の関係に対して問いかけていくことを目指しており、近年は有田焼や大村収容所の歴史を調査しながら作品発表をしている。

 

個展

2024 大村焼, まちのオフィス春陽堂&AGITO, 佐賀

2021 After Potemkin Villages, アートスペーステトラ, 福岡

2014 JUCHE POP, CHODEMI, 東京

 

グループ展

2023 福岡現代作家ファイル, 旧母里太兵衛邸長屋門, 福岡

2023 Homemaking #2, 武蔵野プレイス, 東京

2023 第1回福岡アートアワード受賞作品展, 福岡市美術館, 福岡

2022 Flame, OTA fine arts, 東京

2020 When many pass one way…, OTA fine arts, 上海

2020 LOOKING FOR ANOTHER FAMILY 2020 Asia Project, Museum of Modern and Contemporary Art (MMCA) ,ソウル

2019 パレードへようこそ, OTA fine arts, 東京

2019 VOCA展2019 現代美術の展望─新しい平⾯の作家たち, 上野の森美術館, 東京

2018 Geopolitical Grounds, OTA fine arts, シンガポール

2017 Project Hope?, Post Territory Ujeongguk, ソウル

 

山口 祐香 / Yuka YAMAGUCHI

日本学術振興会特別研究員PD・神戸大学。1993年佐賀県出身。2021年九州大学大学院地球社会統合科学府博士課程修了、博士(学術)。同大学学術研究員などを経て、2022年4月より現職。専門は、戦後日韓関係史・在日朝鮮人史・市民運動史。日本と朝鮮半島をめぐる様々な「境界」に生きた人々の歴史に関心を持ち、九州や関西を主なフィールドに研究を行っている。2024年3月に単著『「発見」された朝鮮通信使-在日朝鮮人歴史家・辛基秀の歴史実践と戦後日本』(法律文化社)を出版。

 

 

design  Shunsuke Onaka (Calamari Inc.)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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